FC2ブログ
おいらの人生これから、こらから・・持病に負けず、老いにも負けず・・リタイヤ爺の独り言

47年後に読む道程

道程

どこかに通じている大道を僕は歩いているのじゃない
僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る

道は僕のふみしだいて来た足あとだ
だから、道の最端にいつでも僕は立つている
何という曲りくねり、迷いまよった道だろう

自堕落に消え滅びかけたあの道
絶望に閉じ込められかけたあの道
幼い苦悩にもみつぶれたあの道
ふり返つてみると
自分の道は戦慄に値いする

四離滅裂な、又むざんな此の光景を見て
誰がこれを生命の道と信ずるだろう
それだのにやつぱり此が生命(いのち)に導く道だった

そして僕は此処まで来てしまつた
此のさんたんたる自分の道を見て
僕は自然の広大ないつくしみに涙を流すのだ

あのやくざに見えた道の中から
生命の意味をはっきり見せてくれたのは自然だ
これこそ厳格な父の愛だ

子供になり切ったありがたさを僕はしみじみと思つた
とうとう自分をつかまえたのだ
恰度そのとき事態は一変した
俄かに眼前にあるものは光を放出し
空も地面も沸く様に動き出した

そのまに自然は微笑をのこして僕の手から
永遠の地平線へ姿をかくした
そしてその気魄が宇宙に充ちみちた
驚いている僕の魂は
いきなり「歩け」という声につらぬかれた

僕は武者ぶるいをした
僕は子供の使命を全身に感じた

子供の使命!
僕の肩は重くなった
そして僕はもうたよる手が無くなった
無意識にたよつていた手が無くなった

ただ此の宇宙に充ちみちている父を信じて
自分の全身をなげうつのだ
僕ははじめ一歩も歩けない事を経験した
かなり長い間、冷たい油の汗を流しながら
一つところにたちつくして居た

僕は心を集めて父の胸にふれた
すると僕の足はひとりでに動き出した
不思議に僕は或る自憑の境を得た

僕はどう行こうとも思わない
どの道をとろうとも思わない

僕の前には広漠とした岩畳な一面の風景がひろがつている
その間に花が咲き水が流れている
石があり絶壁がある
それがみないきいきとしている

僕はただあの不思議な自憑の督促のままに歩いてゆく
しかし四方は気味の悪い程静かだ
恐ろしい世界の果へ行つてしまうのかと思う時もある
寂しさはつんぼのように苦しいものだ

僕はその時又父にいのる
父はその風景の間に僅かながら勇ましく同じ方へ歩いてゆく人間を 僕に見せてくれる
同属を喜ぶ人間の性に僕はふるへ立つ声をあげて祝福を伝へる

そしてあの永遠の地平線を前にして胸のすく程深い呼吸をするのだ
僕の眼が開けるに従つて
四方の風景は其の部分を明らかに僕に示す
生育のいい草の陰に小さい人間のうじゃうじゃ這いまわって居るのもみえる

彼等も僕も大きな人類というものの一部分だ
しかし人類は無駄なものを棄て腐らしても惜しまない
人間は鮭の卵だ
千万人の中で百人も残れば
人類は永久に絶えやしない
棄て腐らすのを見越して
自然は人類の為め人間を沢山つくるのだ
腐るものは腐れ
自然に背いたものはみな腐る

僕は今のところ彼等にかまっていられない
もっと此の風景に養われ育まれて
自分を自分らしく伸ばさねばならぬ
子供は父のいつくしみに報いたい気を燃やしてゐるのだ

ああ人類の道程は遠い
そして其の大道はない
自然の子供等が全身の力で拓いて行かねばならないのだ
歩け、歩けどんなものが出て来ても乗り越して歩け
この光り輝く風景の中に踏み込んでゆけ

僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る

ああ、父よ
僕を一人立ちにさせた父よ
僕から目を離さないで守ることをせよ
常に父の気魄を僕に充たせよ
この遠い道程のため

 作  高村光太郎

・・・・・
小学校3年の時においらの父親は失踪してしまったので
親父の記憶があまりない。
憎しみももたなかった、それは母親の御蔭かな。
でも中学の頃にこの詩集を読んだ時、親父が恨めしかった。
親父に捨てられた子に、この道程はきつかった。

なぁ~んて、もうセピア色にかすれた時代を思い出したりしてね。
関連記事
コメント
コメントの投稿
【Font & Icon】
管理者にだけ表示を許可する
フリーエリア
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

中高年よ大志を抱け
クラーク02
プロフィール

ばく

Author:ばく
獏(ばく)は、中国から日本へ伝わった伝説の生物。人の悪夢を喰って生きると言われてます。どうぞ悪夢を見た時はここに来て「この夢をばくにあげます」とコメントして下さい、そうすれば貴方は、その悪夢を二度と見ずにすむ事でしょう。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

参加してます。
カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
のぞき部屋
カレンダー
01 | 2020/02 | 03
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
言葉は力

presented by 地球の名言

         
ばくの本棚